この記事の想定読者
- 近々退職を考えている方
- 退職後の生活設計を考えたい方
- 社会保険料や税金について知りたい方
会社を辞めたいけれど…退職後にかかる生活費が不安だな
制度をきちんと理解すればざっくりと試算可能ですよ!
離・転職を思いとどまらせる理由の一つに、「お金のやりくりの不安」があるかと思います。
ある程度貯金があったとしても、具体的にいくらお金が必要なのかがわからないと、なかなか思い切った行動はとれませんよね。
私自身、漠然と退職することへの不安を抱いており、「会社を辞めたら終わりだ…」と思っていました。
しかし、実際に退職後に必要な金額を試算してみると、現在の貯金額があれば何もしなくても2年は生きていけるということがわかり、働くうえで気持ちが楽になりました。
ぜひ、みなさまも必要な金額を試算してみてください。必要な金額の試算は、必ず支払いが必要になる&金額が高い、税金・社会保険料を中心にしていくのがおすすめです。
退職後も支払いが必要な税金・社会保険料は、以下の5つになります。
これらを合わせると、所得金額にもよりますが、税金・社会保険料だけで前年所得の30%+20万円程度が必要になります。
なお、ここで言う前年所得とは、昨年の収入から控除を差し引いた金額のことです。会社員の方であれば、「額面年収を半分にしたぐらいの金額の30%+20万円程度」とお考えください。
この記事では、退職して一定期間自由な時間が欲しい方や転職を考えている方のために、税金や社会保険料についての制度や計算の仕方を中心に解説します。
ぜひ、退職後の生活を具体的に試算する参考にしてください。
必ず出ていくお金
2つの税金・3つの社会保険料
会社を退職した後の生活費を試算したいけれど、なにから手をつければいいのか…
まずは、必ず支払わないといけない税金・社会保険料から試算しましょう。
退職後も、必ず支払いが必要な税金・社会保険料は以下の5つです。
この5つは、日本でお金を稼いで生活していくのであれば、今後も必ず支払うものになります。
以下でそれぞれについて見ていきましょう。
所得金額=収入-控除
さっきからちょくちょく出てくる所得金額ってなに?年収とは違うの?
ざっくり言うと、「収入から必要経費(=控除)を引いた金額」です。
この「所得金額」は、税金・社会保険料の計算をするときによく使います。
以下の方法で自身の所得金額を計算してみてください。
- 年末調整 給与所得金額計算ツール (mykomon.com) ←このリンク先に自身の年収(税金・社会保険料が引かれる前の金額)を入力し、「計算」ボタンを押す
- 1で出た所得金額から基礎控除額48万円を引く(年収2,400万円以下の方)
- そこからさらに当年中に支払った社会保険料を引く
この3ステップで出た金額が、当年中のおおまかな所得金額です。
なお、生命保険料を支払っていたり、配偶者や扶養親族がいる場合はここからさらに控除を引いていきます。
控除についてより詳しく知りたい方は、以下のURLを参考にしてください。
控除とは何か、意味や種類まで徹底解説! | マネーフォワード クラウド (moneyforward.com)
所得税=所得金額の5~45%
- 何に対してかかる:当年中の所得
- 税率:所得金額の5~45%
- どうやって支払う:翌年2月16日~3月15日までの期間に確定申告を行う
- 支払わなくてもいいケース:所得が48万円以下のとき
一般的な会社員の方であれば、毎月の給与の天引きと年末調整で、所得の申告と所得税の納税が終了します。
年末調整前に退職した方や、自営業者の方は確定申告を行って納税します。
確定申告については、以下を参考にしてください↓
【2022年(令和3年分)】確定申告のやり方は? 必要書類の準備から提出までの流れをまとめました | 経営者から担当者にまで役立つバックオフィス基礎知識 | クラウド会計ソフト freee
所得税の納税が不要なケース
退職後、所得が発生しなければ所得税の納税の義務は発生しません。
所得が発生しないってどういうこと?働いていないってこと?
ざっくり言うと、稼ぎが少ないってことです。
所得税を納めるほど稼いでいないとされるケースは以下のようなケースです。
- 給与所得者(会社などで雇われている人)であれば、基礎控除(48万円)+給与所得控除(55万円)以内で働いているケース(=年収103万円以内)
- それ以外の所得がある人は、所得の合計が48万円以下のとき
このケースに当てはまる場合は、所得税を支払う必要はありません。
なお、退職後に失業保険の給付を受ける場合、失業保険は非課税のため、いくら給付を受けても納税は不要です。
もちろん、アルバイトなどで労働収入が103万円以上ある場合は、その労働収入については所得税の納税をしないといけません。
租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として課することができない。
雇用保険法第12条
住民税=所得金額の10%+均等割
- 何に対してかかる:前年の所得
- 税率:所得金額の10%+均等割(自治体による)
- どうやって支払う:自治体から届く納付書を金融機関等に持って行って支払う
- 支払わなくてもいいケース:所得が43万円以下のとき
2年以上会社に勤めている方は、2年目以降に給与から天引きされています。
税金額の通知書が毎年6月頃、自治体から本人あてに届きます。そこに一緒に納付書(=お金を払うために必要な書類)が入っているので、それを持って金融機関等に行き、支払いをします。
住民税は所得税と違って半年遅れて徴収されるため、退職後も前年の所得分を支払い続ける必要があります。
退職後の1年間の収入が基礎控除(こちらは43万円)+給与所得控除(55万円)以下(=98万円以内)であれば、退職後2年目以降は働いて収入を得ても納税は不要です。
均等割について
住民税には所得税と違って「均等割」という納税金額の計算があり、この「均等割」は本人の所得金額にかかわらず全員平等に同じ金額を支払います。(令和4年現在 全国一律5,000円)
この均等割についても所得金額が少ないと納税が不要になります。ただし、納税が不要になる所得金額の基準額は自治体によって違うので、「ご自身の自治体名」スペース「均等割免除」で調べてみましょう。
均等割については、以下のURLが参考になります。
住民税の均等割とは?所得割との違い・仕組みについてFPが徹底解説! | マネタス【manetasu】
国民健康保険料=前年所得の8%~10%
- 何に対してかかる:前年の所得
- 税率:前年所得の8%~10%(自治体によって変わる)
- どうやって支払う:6月~翌年3月までの月末に、口座引き落としやコンビニ払い等
- 支払わなくてもいいケース:なし(扶養に入る場合を除く)
健康保険料は、医療費の本人負担を3割にしてくれる社会保険制度の保険料です。
健康保険制度は3種類あり、日本は国民皆保険のためみなさま以下のいずれかに加入しています。
- 国民健康保険(自営業や無職の人)
- 被用者保険(会社員や公務員の人)
- 後期高齢者医療保険(75歳以上の人)
そして、会社を退職後にどの健康保険に入るかは選択肢が3つあります。
- 国民健康保険に加入する(自分で払う)
- 被用者保険を任意継続する(自分で払う)
- 配偶者や両親などの親族の扶養に入る(自分では払わない)
それぞれの特徴と加入をオススメする人を以下で見ていきましょう。
※オススメはあくまで単純計算で考えた場合です。実際の加入についてはそれぞれの家庭状況、リスク許容度において決定してください。
国民健康保険へ加入
- 保険料:前年の所得に応じて
- 扶養制度:なし
- 保障:少ない
独身の人 または 長期間所得が少なくなる人
- メリット:2年目以降も所得が少なければ、保険料はグッと低くなる。(お住いの自治体の法令によって異なる場合があります)
- デメリット:扶養制度がないため、家族がいる場合はその分追加で国民健康保険料を払わないといけなくなる。
参考 国民健康保険料の月額平均はいくら?計算方法や支払いが難しい時の方法を解説 | MANEMO (41fp.com)
被用者保険を任意継続
- 保険料:退職時の標準報酬月額に住んでいる地域の保険料率を乗じた額
- 扶養制度:あり
- 保障:多い
扶養家族がいる人
- メリット:扶養制度があるため、扶養親族がいる場合は国民健康保険よりも世帯保険料を安く抑えられる可能性がある。
- デメリット1:加入できるのは退職後2年間だけ。
- デメリット2:退職時の標準報酬月額から保険料が算定されるので、所得が少なくても2年目以降も保険料は据え置き。
参考 任意継続の保険料について(協会けんぽの場合) 5.保険料と納付方法 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)
※ なお、退職前に加入していたのが組合保険の場合は、それぞれの健康保険組合に保険料を確認してください。
配偶者や親族の扶養に入る
- 保険料:なし
- 保障:多い(被用者保険と同じ)
被用者保険に入っている親族・配偶者がいて、自身の年収が130万円未満の人
- メリット:保険料を全く負担せず被用者保険に加入できる。
- デメリット:扶養に入るには年間の所得見込みが130万円未満である必要がある。(なお、失業保険を受給する場合、失業保険の日額が3,612円以上は扶養に入れない。詳細は扶養に入りたい健康保険組合に確認してください)
なお、失業保険の日額3,612円の算定方法は ⇒ 1,300,000円÷360日=3611.1111… です。
通常のアルバイト等であれば、1,300,000円÷12ヵ月=108,333.3333… 月10万8千円以下の給料でないと扶養に入れません。
参考 扶養について 保険の先生 (hoken-teacher.jp)
扶養については、以下の記事も参考にしてください↓
国民年金保険料=月額16,590円
- 何に対してかかる:20歳以上の人全員
- 税率:一律月額16,590円(令和4年度)
- どうやって支払う:口座振替やクレジットカード払い、納付書をコンビニに持っていく等
- 支払わなくてもいいケース:なし(3号被保険者になる場合を除く)
65歳以降にもらえる「老齢基礎年金」の保険料です。
前年・当年の所得にかかわらず月額16,590円(令和4年度)かかり、月額保険料は毎年改定されます。(ただし、令和元年度以降は上限17,000円/月)
国民年金についても強制加入制度であるため、みなさま以下のいずれかに加入しています。
- 第一号被保険者(自営業や無職の人)
- 第二号被保険者(会社員・公務員の人)
- 第三号被保険者(第二号被保険者に扶養されている配偶者)
国民年金については、退職後の選択肢は以下のとおり2つあります。
- 第一号被保険者になる(自身で保険料を支払っていく)
- 第三号被保険者になる(配偶者の扶養に入る)
これは扶養してくれる第二号被保険者(=会社勤め)の配偶者がいるか、所得見込みが130万円を超えるかどうかで決まります。このときの所得見込みの計算は健康保険の扶養の考え方と同じです。
- 扶養してくれる配偶者がいない ⇒ 第一号被保険者
- 扶養してくれる第二号被保険者(=会社勤め)の配偶者がいる+自身の所得見込み130万円未満 ⇒ 第三号被保険者
参考 第三号被保険者について 出典 日本年金機構 た行 第3号被保険者|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
介護保険料=前年所得の1.64%
- 何に対してかかる:前年の所得
- 税率:前年所得の1.64%
- どうやって支払う:健康保険料と一緒に支払う
- 支払わなくてもいいケース:40歳未満
介護保険サービスを利用したとき、本人負担額が1~3割になる社会保険制度の保険料です。
40歳以上の人は、生涯にわたって支払いの義務があります。
支払い方法については、40~64歳までは健康保険料に上乗せする形で支払い、65歳以降は年金から天引きか、納付書、または口座振替になります。
介護保険についても健康保険と同じように扶養の制度がありますが、扶養者(=扶養してくれる人)の年齢や加入している健康保険組合によって支払いに差があります。扶養者の加入している健康保険組合に確認しましょう。
参考 【2022年最新版】介護保険料とは|いつからいつまで支払う? 金額はいくら?【介護のほんね】 (kaigonohonne.com)
社会保険料の減免・軽減について
国民健康保険料や国民年金などの社会保険料については、失業状態のとき、または所得金額が低いときに猶予・軽減・免除の対象になる可能性があります。
前年の所得や家族構成によって対応が変わりますので、お住いの自治体に確認してみましょう。
参考 日本年金機構 国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
健康保険料の軽減・免除について 国民健康保険が軽減・免除される年収の条件は?退職や失業も対象に? (hoken-room.jp)
実際に試算してみよう
Let’s 計算!
それでは、退職後も支払いが必要な税金・社会保険料がわかったので、実際に試算してみましょう。
今回は、
- 東京都中央区在住 30歳 独身
- 令和3年12月31日付退職
- 令和3年の年収は400万円 社会保険料は合計70万円支払った
- 令和4年は1年間働かない
この人の令和4年にかかる税金・社会保険料を計算してみます。
令和3年の所得の計算
令和3年の所得金額が確定しないと、税金や社会保険料の計算が出来ませんので、所得の計算からしていきます。
- 年末調整 給与所得金額計算ツール (mykomon.com)に400万円を入力 ⇒ 276万円
- 276万円から基礎控除48万円を引く ⇒ 228万円
- さらに社会保険料70万円を引く ⇒ 158万円
令和3年の所得が確定しました。今回は他の控除は使わず、ここから計算していきます。
2つの税金
まずは税金の計算から。
所得税
- 0円(令和4年中は無職のため)× 税率 = 0円
住民税
- 所得割 158万円 × 10% = 15.8万円
- 均等割 0.5万円
- 合計 15.8万円 + 0.5万円 = 16.3万円(ひと月あたり1.36万円程度)
税金は、所得税・住民税を合わせて年間16.3万円になりました。
3つの社会保険料
次は社会保険料の計算。
国民健康保険料の計算は以下のURLから行います。
国民健康保険計算機|全国の市区町村の国民健康保険料を自動計算できる (kokuho-keisan.com)
国民健康保険料
- 上記URLに昨年の年収400万円を入力 ⇒ 23.6万円
国民年金保険料
- 月額16,590円 × 12ヵ月 = 19.9万円
介護保険料
- 0円(40歳未満のため納付対象外)
社会保険料は、国民健康保険料・国民年金保険料・介護保険料を合わせて年間43.5万円になりました。
合計で年間約60万円
税金・社会保険料を合わせると、年間約60万円になることがわかりました。
冒頭でお伝えしたとおり、やはり年間では前年所得の30%+20万円程度が必要になります。
(前年所得 158万円 × 0.3= 47.4万円 + 20万円 = 67.4万円)
あとは、この金額に各々の生活費や住居費用を足すことで、退職後の必要経費が算出できます。
単身者の生活費の平均は月額15.5万円
総務省の家計調査年報によると、2021年の単身者世帯の消費支出(=食費や住居費、光熱費などの合計)は、平均で月額15.5万円です。(年間にすると15.5万円×12ヵ月=186万円)
出典 総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年) 家計の概要 家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)Ⅱ総世帯及び単身世帯の家計収支 (stat.go.jp)
支払い必須の税金・社会保険料と合わせると、年間で186万円+60万円=240万円程度が必要になるということです。
なんとなくですが、退職後のお金のやりくりが想像できたのではないでしょうか。
まとめ
お金について考えてみよう
以上、退職後にかかるお金について解説、試算しました。
退職後も支払いが必要な税金・社会保険料は以下の5つで、
必要な金額をざっくり計算すると、退職する前年所得の30%+20万円程度必要なことがわかりました。
単身者の生活費は2021年の平均で月額15.5万円、年間186万円必要なことがわかり、税金・社会保険料と合わせて年間240万円程度が必要との結果になりました。
「これだけでいいのか」と思いました? それとも「こんなにかかるのか」と思いました?
どちらにせよ、退職後に必要な金額が具体的にわかると、次の行動に移りやすくなりますよね。
離・転職を考えている方は、ぜひ、この機会に自身が退職した場合の必要金額を計算してみましょう。
最後までご覧いただきありがとうございました。
もっとお金について考えたい方は以下の記事を参考にしてください↓
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