「海外で新たなキャリアを築きたい」「退職後に海外で生活を始めたい」など、海外への渡航や引っ越しが決まった際には、雇用保険の手続きがどうなるのか事前に確認しておくと安心です。いつのタイミングで海外渡航するのかによって雇用保険の取扱いや手続きは変わりますが、海外渡航と雇用保険制度について、大まかに分けると以下のようになります。
この記事では、海外勤務・渡航と雇用保険制度について、以下の3点から解説します。
- 在職中に海外に渡航する場合の雇用保険(失業保険)の取扱い
- 退職後~失業保険申請前に海外渡航が決まった場合の雇用保険(失業保険)の取扱い
- 失業保険受給中に海外渡航が決まった場合の雇用保険(失業保険)の取扱い
ぜひ最後までご覧ください。
この記事の参考にしている「雇用保険業務取扱要領」については、以下のURLから確認できます↓
雇用保険制度とは
雇用保険制度は、一定の条件を満たした労働者の方が、雇用されている期間中に加入出来る社会保険制度の一つです。雇用保険に加入することで、会社を退職し失業状態になった場合には失業等給付金(いわゆる失業保険)の対象になることが出来ます。
他にも、スキルアップのための勉強・資格取得を行うときの教育訓練給付金、育児・介護で会社を休む時の雇用継続給付金など、様々な給付金の対象になります。
雇用の安全・確保を目的にした保険です。
加入対象になる方は、自身が利用できる制度を確認しておきましょう。
雇用保険の加入条件は大きく以下の2つ。
- 所定労働時間が週20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
労働時間と雇用期間のみが条件で、条件を満たしていればパート・アルバイトの方でも対象になります。雇用保険には扶養の制度が無く、対象になるのは上記の条件で働いている方だけです。
加入のハードルが低いので、対象になる方が多いのが特徴です。
ただし、公務員・昼間学生の方は条件を満たしても加入対象になりませんのでご注意ください。
雇用保険について、どんな人が加入対象になるのか、雇用保険に加入するメリットは何か、については以下の記事を参考にしてください↓
在職中に海外に渡航する場合の雇用保険(失業保険)
在職中に海外に渡航する場合の雇用保険(失業保険)については、以下の問題があります。
結論から言うと、海外で働いていても日本企業に在籍している場合は加入対象になり、海外企業に在籍している場合は加入対象外になります。雇用保険の対象になるには、前出の時間・期間の労働条件2つに加えて「雇用保険の適用事業所に勤めている」ことが必要です。雇用保険の適用事業所の範囲は雇用保険法によって定められ、労働者を雇用する全事業所が対象とされています。
労働者が一人でもいる企業・事業は、規模に関わらず全て対象です。
雇用契約で働いている限り、あなたの働いている会社・企業も必ず雇用保険適用事業所です。
※ 農林水産事業の一部には暫定任意適用事業所という例外もあります。対象になる方は少ないですが、暫定任意適用事業所の詳細については以下のURLから確認してください。 参考 群馬労働局 「労働保険関係の成立と対象者」https://jsite.mhlw.go.jp/gunma-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudou_hoken/jigyou01.html
雇用保険法によって、労働者がいる全ての企業・事業が適用事業所になりますが、雇用保険法の対象になるのは日本にある企業・事業のみです。海外の企業・事業は雇用保険法の対象にならないため、海外で海外の企業・事業と雇用契約を結ぶ場合は、適用事業所で勤めるという条件を満たさなくなり、雇用保険の加入対象になりません。
海外で働くことになった場合は、どの会社と雇用契約を結んでいるかによって加入対象になるかが決まります。
雇用契約先が日本企業であれば加入対象・海外企業は加入対象外
雇用契約の相手が日本企業であれば、勤務先が海外であっても、日本国内の雇用契約が継続している限り、雇用保険の加入対象になります。反対に、雇用契約の相手が海外企業であれば雇用保険の加入対象外になります。
海外勤務には様々な種類・方法があり、会社ごとに取扱い方も違います。必ずこうなるとは断言できませんが、海外勤務と雇用契約の相手方、雇用保険の関係の具体例をまとめると以下のとおりになります。
- 雇用契約先:元々の日本企業
- 雇用保険:加入対象
- 雇用契約先:元々の日本企業&海外企業
- 雇用保険:加入対象
- 雇用契約先:海外企業
- 雇用保険:加入対象外
必ずこうなるというわけではありませんが、大まかな目安にしてください。
最終的な判断は、所属の会社の就業規則・雇用契約書の内容を基に、管轄のハローワークで行われます。
日本企業から給与が支払われない場合
日本企業と雇用契約を結んでいるが給与は支払われない場合、以下の対応になります。
- 雇用保険はそのまま加入対象
- 失業保険の受給資格に必要な期間としてカウントできない
- 失業保険の金額算定の対象期間にならない
結論から言うと、退職日の直近3年間以上日本企業から給与の支払いが無いまま退職すると、失業保険の受給は出来ません。(会社都合退職の場合を除く)給与を支払われていない期間は、失業保険の受給資格があるか計算する「被保険者期間」にならないためです。
勤めている企業によって給与の支払い方法は変わり、以下のいずれかのパターンになります。
- 日本企業のみから給与をもらう
- 日本企業と海外企業の両方から給与をもらう
- 海外企業のみから給与をもらう
以下では、「海外企業のみから給与をもらう」場合について解説を行います。
日本企業と雇用契約があれば給与は支払われなくても雇用保険は加入対象
在籍出向で海外勤務を行う場合、一般的には元々の日本企業と海外企業の2つの企業と雇用契約を結ぶことになります。日本企業と元の雇用契約が続いている限りは、給与が支払われなかったとしても原則は雇用保険の加入対象です。ただし、自身の希望で海外企業に出向し、日本企業から給与が支払われない場合は加入対象外になることもあります。
海外出向に至った背景や、雇用契約の内容、出国後の状態によって管轄ハローワークが最終的な判断をします。
対象になりそうな方は、事前に確認してみましょう。
失業保険の受給資格に必要な期間としてカウントできない
前出のとおり、日本企業から給与が支払われなくても、元の雇用契約が続いている限り原則は雇用保険の加入対象になります。ただし、日本企業から給与が支払われていない期間については、雇用保険料の徴収が行われず、加入はしていても失業保険の受給資格に必要な「被保険者期間」としてカウント出来ません。
失業保険を受給するためには、「退職日の直近2年間」のうちに、「労働日数が11日以上ある月」が満12月必要、という条件があります。
この「退職日の直近2年間」を算定対象期間、「労働日数が11日以上ある月」を被保険者期間と言います。
参考 雇用保険法第14条 ※ 月11日以上働いていなくても、月80時間以上労働していればその月も1月としてカウント可能です。
日本企業から給与が支払われない期間は、労働日数が0日で計算され被保険者期間の1月分としてカウントが出来ません。
つまり、退職日の直近1年以上日本企業から給与の支払いが無ければ、失業保険の受給対象にならなくなってしまいます。ただし、企業からの命令で海外に出向する場合については、受給資格の要件緩和という制度で算定対象期間に海外出向期間分をさかのぼって加算することが出来ます。
参考 雇用保険業務取扱要領50152(2) 受給要件の緩和が認められる理由
受給資格の要件緩和制度を利用すると、退職日の直近1年以上日本企業から給与の支払いが無くても、海外出向期間以前に被保険者期間が12月以上あれば失業保険の対象になれます。ただし、海外出向期間の受給要件緩和は、以下の2点に注意が必要です。
- 「算定対象期間」に加算できる期間は「海外出向期間分」のみ
- 「算定対象期間」に加算できる期間は上限2年間
算定対象期間は加算されても最大4年間のため、退職日の直近3年以上日本企業から給与の支払いが無ければ、失業保険の対象になりません。(会社都合退職を除く)
まとめると、日本企業から給与の支払いが無い場合、海外出向期間が3年未満であれば失業保険の受給資格ありの可能性が高く、海外出向期間が3年以上であれば受給資格なしの可能性が高い。ということです。
受給資格の要件緩和制度の利用は、離職票発行時に企業が行うか、失業保険申請時に受給資格者が行うか。のどちらかです。詳細については、所属企業の人事・労務・総務担当または管轄のハローワークに確認してみてください。
失業保険金額算定の対象期間にはならない
失業保険の金額は、退職直前6ヶ月間の給与から計算します。日本企業から給与の支払いが無い期間についての給与は0円として計算され、失業保険金額算定の対象期間になりません。
この場合、退職直前の6ヶ月間ではなく、退職直前の日本企業から給与をもらっていた6ヶ月間が失業保険金額算定の期間になります。
なお、日本企業と海外企業の双方から給与をもらっていた場合は、海外企業からの給与を除いた金額で失業保険金額が算定されることがあります。契約内容によって取り扱いが変わるため、詳細については所属企業の人事・労務・総務担当または管轄ハローワークに確認してみてください。
退職後~失業保険申請前に海外に渡航する場合の雇用保険(失業保険)
退職後~失業保険申請前に海外に渡航する場合の雇用保険(失業保険)については、以下の2つの問題があります。
海外で働いていても被保険者期間が確認出来れば失業保険受給可能
結論から言うと、海外で働いていた方でも、前出のとおり日本企業と雇用契約を結び、日本企業から給与をもらっていた場合は失業保険の対象になります。「海外で働いていたから」という理由で失業保険をもらえないことはありません。
ただし、前出のとおり元の日本企業から給与の支払いを受けていない場合は、失業保険をもらうために必要な「被保険者期間」が足りない可能性もあります。
自身が失業保険の対象になるかについて、詳細は管轄のハローワークで確認しましょう。
海外で働いていた方が日本に帰国した場合は、上記の取扱いになりますが、海外で働いていた方が退職後もそのまま海外に住む場合については、以下の解説を確認してください。
退職後に海外に移住すると失業保険受給は難しい(不可能ではない)
退職後に海外に移住する場合は、失業保険の受給はかなり難しくなります。海外で働いていた方が、退職後にそのまま海外に住み続ける場合も同じです。
海外に移住すると失業保険はもらえない。という法律・規則はありませんが、海外に住んで失業保険を受給するのは、手続き・金銭的に非常に効率が悪いです。その理由は、失業保険の受給対象になるためには、住所の管轄ハローワークにて以下の2つを行う必要があるためです。
- 求職の申し込み
- 4週間ごとの失業の認定
なお、失業保険を受給するためには失業状態である必要があり、これは海外に移住する場合でも同じです。
失業状態とは、「自営業や週20時間以上の仕事をしておらず、週20時間以上の仕事を探しており、自分にあった仕事が見つかれば働ける状態」のことを言います。
失業保険の申請手続き自体が物理的に可能であったとしても、海外に移住するので仕事を探せない・探さない場合は、失業状態に該当しなくなり失業保険は申請出来ません。
海外企業への就職活動でも失業状態になります。
海外に移住後も失業保険の手続きを行う場合は、自身が失業状態であるか必ず確認しましょう。
ハローワーク窓口で求職申込
求職の申し込みとは、これから仕事を探していくにあたって、希望条件や前職の内容を確認する手続きです。ハローワークの利用経験があり、登録データが残っている方であれば、今後の希望就労条件や扶養家族の状況、前職の仕事内容など、仕事探しを始めるのに必要な情報の聞き取りが行われます。
ハローワークの利用が初めての方は、窓口利用に必要な求職登録手続きを行います。求職登録手続きは、住所・氏名・希望職種や希望勤務地などの、仕事探しに必要な情報を登録する手続きです。窓口・インターネットの両方から手続きが可能で、一度登録すると5年間同じ登録データを利用できます。ただし、失業保険の申請にあたっては、離職票の提出と同時に、窓口で「求職申込」を行う必要があります。
参考 雇用保険法第15条第2項
現行の制度では、窓口での求職申し込みが必須になっています。
これは海外に移住する場合でも同じです。
ハローワークの求職登録について、窓口・インターネット両方の登録方法については、以下の記事を参考にしてください↓
ハローワーク窓口で4週間に1度の失業認定
失業保険の申請後、実際に給付金を受給するためには、4週間に1度の失業認定を受ける必要があります。失業認定とは、4週間に1度、必要書類を持ってハローワーク窓口に行き、自身の失業状態を窓口の職員に申告し、失業保険の受給対象になっているかを確認する作業です。
※ 自己都合退職の場合は、初回から2回目の失業認定日までが4週間ではなく2ヶ月以上空くこともあります
窓口で失業認定を行う日を失業認定日と言い、この失業認定日はハローワークで設定され、やむを得ない事情がない限り日付を変更することは出来ません。
4週間に1度は必ずハローワークの窓口に行く必要がある。ということです。
失業認定日の当日に窓口に行けない場合、失業保険の支払いは受けられません。
他にも、失業保険申請後は雇用保険説明会や初回講習の参加など、ハローワークで行われる行事がたくさんあります。失業保険の申請から実際に受給するまでの流れをまとめると、以下のとおりです。
- 失業保険を申請(窓口へ)
- 雇用保険説明会・初回講習へ参加(ハローワークで開催)
- 4週間に1度の失業認定を受ける(窓口へ)
- 所定給付日数が終わるor就職するまで上記を続ける
失業保険を受給するためには何度もハローワークに出向く必要があり、移動時間・交通費・宿泊費などを考えると全く割に合いません。
こういった理由から、海外移住後の失業保険受給はオススメしません。
海外に住んでいる方は法律・規則で絶対に申請・受給が出来ない、となっているわけではないので、申請・受給したい方は一度管轄ハローワークに相談してみてください。
なお、令和6年10月現在、失業認定のオンライン化を推進する話が出ており、この取り組みが大きく広がれば、海外移住後の失業保険受給が現実的になる可能性もあります。今後の動向に注目してください。
参考 厚生労働省 「失業認定オンライン化について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001071615.pdf
期間限定で海外に渡航する場合は受給期間の延長制度を利用しよう
退職後の海外移住が期間限定であれば、受給期間延長の手続きを行いましょう。失業保険の有効期限は退職後1年間ですが、受給期間延長手続きを行えば、有効期限を最大3年追加することが出来ます。
参考 雇用保険業務取扱要領50272(2)
有効期限内に手続きを行い、失業認定を受けなければ失業保険は受給できません。
有効期限中の帰国が難しい場合は、有効期限を延長する手続きの「受給期間延長手続き」を行いましょう。
受給期間延長の手続きで延長できる期間は最大3年間です。(元の有効期限と合わせて4年間が最大の有効期限)4年以上海外に滞在する場合は、延長手続きをしても有効期限が切れてしまいますので、海外に永住または長期滞在するのか、短期の移住になるのかをふまえたうえで手続きを進めましょう。受給期間延長手続きの流れは以下のとおり。
- 退職後働けない状態が30日以上経過
- 必要書類をハローワーク窓口に提出
- ハローワークが受理・処理を行う
- 今後の失業保険手続きに必要な書類が返送される
- 失業保険手続きが出来る状態になるまで書類を保管しておく
受給期間延長手続きは、窓口・郵送・代理人のいずれかで行えます。郵送の場合は、エアメールを利用して手続きを行いましょう。エアメールの出し方については、以下のURLを参考にしてください。
筆まめネット 「国際郵便を送ろう!料金や住所の書き方を解説 – 筆まめネット」 https://fudemame.net/fudemamenet/fudemamedia/hagaki/02
代理人の場合は、後述の必要書類に加えて委任状が必須になります。委任状とはどんな書類か、書き方については以下のURLを参考にしてください。
イーデザイン損保【公式】 「委任状とはどんな書類?|必要となるケースや書き方」 https://www.e-design.net/ande/guide/carlife/poa
受給期間延長制度とはどんな制度なのか、利用のメリット・デメリットはなにか、申請にあたっての注意点などの詳細は、以下の記事を参考にしてください↓
受給期間延長が認められる理由
受給期間延長手続きが出来る理由は限られており、海外に渡航する場合の認められる延長理由は以下の2つ。
- 配偶者の海外勤務に同行
- 青年海外協力隊など公的機関が行う海外技術指導の海外派遣
この理由以外の海外移住は受給期間延長の対象になりません。
当てはまる可能性のある方は、事前にハローワーク窓口で相談してみましょう。
受給期間延長手続きに必要な書類
海外に行く場合の受給期間延長手続きについて、必要書類は以下のとおり。
- 受給期間延長申請書
- 雇用保険被保険者離職票2
- 身分証明書
- 受給期間延長の理由が確認出来るもの
- (配偶者の海外勤務に同行の場合)海外転勤の辞令+出国日の分かるパスポートのコピー
- (青年海外協力隊の場合)派遣証明書
受給期間延長申請書は、ハローワーク窓口でもらえます。雇用保険被保険者離職票2は、通常、退職後2~3週間程度で会社からもらえますが、離職票の発行を希望することを会社に伝えていないと、発行されない場合もあります。離職票発行の希望については、退職前に会社に伝えておきましょう。
身分証明書は、運転免許証やマイナンバーカードです。どちらも持っていない場合は、以下から2つ以上の書類を持っていきましょう。
- パスポート
- 住民票の写し
- 年金手帳
- 健康保険証
受給期間延長の理由が確認出来る書類は、海外に渡航する理由によって変わります。制度を利用する場合は、事前にハローワークに相談し、必要な書類を確認しておきましょう。
近年、日本ではパスポートの出入国スタンプを希望者以外省略しています。日付の確認等で必要になりますので、出入国時には忘れず押印してもらうようにしましょう。
受給期間延長手続きを行う時期・タイミング
前出の必要書類をハローワークに提出することで、受給期間延長手続きが行えます。手続きを行うタイミングは、退職後、働けない事情がある状態で30日以上経過したのちです。
「海外に渡航してから30日以上経過してから」ということです。
ただし、海外渡航30日経過前でも、30日以上経過することが確実な場合は事前の申請が可能です。
参考 雇用保険業務取扱要領50273(3)
受給期間延長手続きは、窓口・郵送・代理人のいずれかで行えます。基本的には海外に渡航したあとでしか申請が行えないので、帰国前に手続きを行う場合は郵送か代理人での申請が主流になります。郵送の場合はエアメールを利用し、代理人の場合は委任状が追加で必要になります。
郵送・代理人での手続きは煩雑になることが多く、書類の不備や記入もれなどで手続きが長引くことがあるため、窓口での申請をオススメします。なお、受給期間延長手続きは、帰国後、失業保険受給手続きのタイミングでまとめて行うことも可能です。
帰国時まで書類を保管する必要はありますが、帰国後に失業保険申請とまとめて手続きを行うのが一番手間は少ないです。
自身にあった申請方法・タイミングを検討してみてください。
失業保険受給中に海外に渡航する場合の雇用保険(失業保険)
失業保険受給時に海外に渡航する場合の雇用保険(失業保険)については、以下の2つの問題があります。
失業保険受給中に海外移住すると失業保険受給は難しい(不可能ではない)
失業保険受給中に海外移住すると、失業保険はもらえなくなる可能性が高くなります。前出の「退職後に海外に移住すると失業保険はもらえるのか」のとおり、失業保険を受給するためには定期的にハローワークへ出向く必要があります。
海外移住すると失業保険がもらえなくなるという規則はありませんが、定期的に帰国する費用を考えると、海外移住後に失業保険を受給することは現実的ではありません。失業保険受給中の海外移住が決まった場合は、以下の3つから対応を選択しましょう。
- 受給をあきらめる
- 認定日のたびに帰国して受給する
- 受給期間延長手続きを行う
受給をあきらめる場合は手続き不要
海外に移住した後は、失業保険の受給をしない方法です。この場合、特に手続きを行う必要はありません。ハローワークに行かなければ失業認定が行われず、失業保険が支払われません。失業保険が支払われないまま受給期限(有効期限)が到来すれば、失業保険の手続きは自然に終了します。
手続きをしなければ今後の雇用保険の各種手続きが不利になる、ということもありません。
海外に渡航する場合以外でも、失業保険の受給を辞める場合は原則手続き不要です。
なお、長期間手続きをしていなくても、受給期限(有効期限)内であれば、ハローワークに行けば失業保険の受給手続き再開が可能です。海外移住が一時的になった場合は、帰国後、速やかにハローワークへ出向き受給再開の手続きを行いましょう。受給再開手続きに必要な書類は以下のとおり。
- 雇用保険受給資格者証
雇用保険受給資格者証は、紛失してしまっても即日再発行が可能です。再発行を希望する場合は、以下の書類を持って窓口に行きましょう。
- 身分証明書(運転免許証orマイナンバーカード)
- 写真1枚(マイナンバーカードがあれば省略可)
失業認定日のたびに帰国して受給する
4週に1度の失業認定日のたびに帰国できる場合は、失業保険の受給継続が可能です。ただし、前出のとおり金銭的・物理的な負担が非常に高く、あまりオススメしません。
また、継続して失業保険を受給する場合は失業状態である必要があり、これは海外に移住する場合でも同じです。海外に移住するので仕事を探せない・探さない場合は失業保険の対象ではなくなるので、ご注意ください。
受給継続するのは、失業保険がなかったとしても定期的な帰国予定がある方などが考えられます。
それ以外の方は、本当に手間に合うのか考えたうえで、受給継続するか検討しましょう。
受給期間延長理由に当てはまる方は延長手続きも可能
前出の受給期間延長理由に当てはまる方は、失業保険の受給手続き後でも延長手続きが可能です。延長できる期間は、前出の失業保険申請前と同じく最大3年間。手続きの方法・流れも同じですが、必要書類のうち雇用保険被保険者離職票2が雇用保険受給資格者証に置き換わります。おさらいですが、受給期間延長が認められる理由は以下の2つ。
- 配偶者の海外勤務に同行
- 青年海外協力隊など公的機関が行う海外技術指導の海外派遣
上記以外の場合は、諦めるor受給継続のいずれかを検討しましょう。
失業保険受給中は短期間であれば海外旅行が可能
失業保険受給中は、短期間であれば海外旅行が可能です。なお、ここでいう短期間とは2週間程度です。失業保険受給中の海外旅行を考えている方は、旅行期間は2週間以内を目安にしておきましょう。理由は以下の2つ。
- 4週間に1度の失業認定日にハローワーク窓口へ行く必要があるから
- 失業認定日までに2回以上の求職活動実績が必要になるから
前提として、失業保険受給中に海外旅行をしてはいけないという法律・規定はありません。何週間海外旅行に行ったとしても、それだけで失業保険がもらえなくなることはありませんが、失業保険を受給するためには失業状態である必要があり、4週間に1度の失業認定日にハローワーク窓口で失業認定を受ける必要があります。
また、失業状態の確認にあたっては、毎回の失業認定日ごとに2回以上の求職活動実績が必要になります。求職活動実績として認められる活動は、ハローワーク窓口での職業相談や求人応募などです。
長期間海外旅行に行くと、失業認定日の当日にハローワークに行けなかったり、2回以上の求職活動が行えない可能性があります。
こういった理由から、失業保険受給中の海外旅行期間は、なるべく2週間以内程度で考えておきましょう。
離職理由が自己都合退職の方など給付制限期間がある方は、給付制限期間中に海外旅行に行くことをオススメします。具体的には、初回から2回目の認定日までの期間です。
給付制限がかかる場合、初回から2回目までの認定日の間隔が2か月近くあり、この期間も必要な求職活動実績は変わらず2回以上です。比較的時間に余裕があるため、引っ越しやアルバイトなどがしやすい期間になります。
失業保険受給中に海外旅行に行く場合は、給付制限期間中に2週間以内を目安にしましょう。
まとめ(締め)
以上、海外勤務・渡航と雇用保険制度について、以下の3点から解説しました。
- 在職中に海外に渡航する場合の雇用保険の取扱い
- 退職後~失業保険申請前に海外渡航が決まった場合の雇用保険の取扱い
- 失業保険受給中に海外渡航が決まった場合の雇用保険の取扱い
まとめると以下のとおり。
在職中に海外勤務が決まった場合、日本企業に在籍している場合は引き続き雇用保険加入対象のままで、海外企業に在籍している場合は雇用保険加入対象外になります。
ただし、在籍出向など日本企業と海外企業の両方と雇用契約を結ぶ場合、引き続き雇用保険に加入していたとしても、日本企業から給与の支払いが無ければ以下の取扱いになります。
- 雇用保険はそのまま加入対象
- 失業保険の受給資格に必要な期間としてカウントできない
- 失業保険の金額算定の対象期間にならない
3年以上日本企業から給与の支払いが無ければ、退職後に日本に帰国しても失業保険の受給対象外になることもあります。自身の失業保険がどういった取り扱いになるのかは、帰国前に自社の総務・人事・労務担当に確認しておきましょう。
退職後、失業保険申請前に海外移住が決まった場合、海外在住の期間は失業保険受給が難しくなります。現行の制度では海外にいたまま失業保険を受給することは出来ず、受給するには逐一帰国が必要になるためです。
海外への移住理由が配偶者の転勤に同行するためや、海外青年協力隊などに参加するためで、かつ、移住予定期間が4年未満であれば、受給期間延長の手続きをしておきましょう。手続きの流れ、必要書類は以下のとおりです。
- 退職後働けない状態が30日以上経過
- 必要書類をハローワーク窓口に提出
- ハローワークが受理・処理を行う
- 今後の失業保険手続きに必要な書類が返送される
- 失業保険手続きが出来る状態になるまで書類を保管しておく
- 受給期間延長申請書
- 雇用保険被保険者離職票2
- 身分証明書
- 受給期間延長の理由が確認出来るもの
- (配偶者の海外勤務に同行の場合)海外転勤の辞令+出国日の分かるパスポートのコピー
- (青年海外協力隊の場合)派遣証明書
失業保険受給中に海外渡航が決まった場合も、海外在住の期間は失業保険受給が難しくなります。海外移住理由が受給期間延長理由に当てはまり、移住予定期間が4年未満の場合は受給期間延長手続きをしておきましょう。
海外渡航の目的が旅行の場合は、継続して失業保険の受給が可能です。ただし、旅行期間は2週間以内を目安にしておきましょう。失業保険を受給するためには、4週間に一度の失業認定日までに求職活動実績を2回以上行い、失業認定日当日にハローワーク窓口に行く必要があります。2週間以上の長期旅行は、この2つが難しくなるためオススメしません。
グローバル化やリモートワークの普及が進み、海外勤務や海外移住が珍しい時代ではなくなっています。海外に永住する場合を除き、海外で働く・海外に住む場合でも、雇用保険制度を利用できることがあります。うまく活用し、希望のキャリア形成を進めていきましょう。
充実した職業人生になるよう祈っております。最後までお読みいただきありがとうございました。
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